税理業務を行う上での法律を定めた税理士法において、懲戒事由になることも多いのが税理士の名義貸しです。勤務している企業や、知り合いの個人事業主の顧問を務めている税理士が名義貸しを行っていた場合、通報すべきかどうか迷う方もいるでしょう。ここでは、税理士の名義貸しを判断するポイントや、実際に通報すべきかどうかなどについて説明していきます。
名義貸しとは
名義貸しとは、広義では自分の名義を他人に貸したり、資格や特別な許可が必要な業務を、資格を持っていない無資格者に代行させたりすることをいいます。税理士法における名義貸しは、税理士の資格を有していない非税理士が、資格を持った税理士の名義だけを借りて仕事をする行為及び税理士が名義を無資格者に貸す行為のことを指します。
税理士法において、懲戒処分の対象となる違反行為の一つです。「名義を貸しても仕事内容に影響が無ければ大丈夫なのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、税理士の業務の中には、資格を有している税理士が担当する必要がある業務も少なくありません。無資格者に税務の仕事に関する知識があったとしても、一部業務を担当するのは有資格者でなければならないと税理士法で定められている以上は、無資格者に名義を貸して仕事をさせてはいけないというわけです。
税理士の名義貸しが起こる理由
懲戒事由であるにも関わらず、名義貸しが起こる理由として挙げられるのが、「名義貸しをしている本人が違反行為であることを認識していない」というものです。悪意を持って名義貸しをする方もいますが、名義貸しをしている税理士の中には、自分がやっていたことを名義貸しだと思っていなかったという方も少なくありません。
例として挙げられるのが、「最終的に資格を有した税理士が内容をチェックすれば大丈夫」だと思っているケースです。書類の作成を無資格者が行っても、内容に間違いが無いかを資格を有する税理士が責任をもってチェックした上で署名押印すれば大丈夫だと判断する税理士がいるため、特に悪意がなくても名義貸しが起きる場合があります。
名義貸しかどうかを判断するポイント
通報する前に少し立ち止まって、通報しようとしている行為が本当に名義貸しかどうかを確認するのは大切なことです。名義貸しのように見えて、実際には名義貸しに該当しない場合も存在するので、虚偽の通報をしないためにも、判断するために重要なポイントをいくつか知っておく必要があります。判断するポイントは、大きく分けて三つ存在します。
一つは、税理士自ら税務書類の作成をしているかどうかという点です。税理士が作る書類の中には、税理士の資格を有する者のみが作成するよう決められているものがあります。例として挙げられるのが、税務申告書の作成や領収書を含む原資資料の帳票作成などです。無資格者が作成したものを税理士が確認したとしても、税理士が作成したことにはならないので、必ず税理士自ら作らなければ名義貸しに該当します。
名義貸しかどうか判断する二つ目のポイントは、税理士に支払われる報酬が納税者から支払われているかという点です。税理士が企業や個人事業主などの納税者と契約する場合、原則として税理士は依頼元である企業・個人事業主から直接報酬を受け取る必要があります。納税者から直接報酬を受け取っていない場合、納税者は別の人間に対して報酬を支払っていることが考えられます。名義貸しの一連の流れは、納税者が無資格者に対して税務を依頼し、無資格者に支払われた報酬の一部を、無資格者自身が有資格者である税理士に支払うというも流れが多いです。そのため、名義貸しが行われているかどうかを判断する際に鍵となるポイントの一つだといえます。ただし、顧問契約を結んでいる税理士が2人いること自体が悪いというわけではないので、人数に注目するのではなく、あくまでも「税理士に直接報酬が支払われているか」という点で判断することが重要です。
三つ目のポイントは、税理士が直接納税者から税理士業務を依頼されているかどうか。税理士として仕事をする場合は、税理士登録を行うと同時に、税理士会に入会することが義務付けられており、税理士会では「入会している会員は、必ず契約した依頼者から業務委嘱を受けなければならない」というような規定があります。「入会している税理士会の規約に従う必要がある」という規定が税理士法には存在するので、税理士は必ず税理士会の規約を守り、納税者から直接業務を受けなければなりません。名義貸しでは、税理士ではなく無資格の非税理士が納税者から業務を依頼される形になるので、当然ながら規約違反の対象になります。
名義貸しを発見したら通報した方が良いのか
名義貸しを発見した際、通報すべきかどうか迷う方がいるかもしれませんが、看過せずに通報する方が良いでしょう。懲戒事由だからというだけではなく、違反行為をしていると自覚できていないことが多いというのも通報すべき理由の一つです。違反行為である名義貸しですが、税理士が善意で名義貸しをしているケースも稀に存在します。
すべての税理士が税理士法に関して熟知しているとは限らないので、名義貸しが違反であることを知らなければ、知り合いや友人に頼まれて名義を貸してしまう税理士もいるでしょう。通報することによって、「自分がやっていたことは悪いことだったのか」と本人が気づくきっかけにもなります。
注意すべきなのが、素人の目線では名義貸しかどうかの判断が難しいことです。判断する際に見るべきポイントはいくつか存在しますが、詳しい事情は当事者にしかわかりません。例えば、「税理士が行っている業務を、別の非税理士が代わりに行っている」という場合、名義貸しをしている可能性はあります。
しかし、税理士が担当する業務には、会計処理など税理士以外の方がやっても問題がない業務も含まれています。そのため、いくつかの判断ポイントをもとに名義貸しだと判断できたとしても、それが実際に名義貸しに該当するとは限りません。もし虚偽の通報をした場合、相手から名誉棄損だと訴えられてしまう可能性もあります。そのため、曖昧な情報を頼りに通報するのはおすすめしませんが、「無資格の非税理士が税理士の代わりに申告書の作成をしていた」など、決定的な証拠がある場合はすぐに通報した方が良いでしょう。
通報する際はどこに通報するべき?
通報すると聞くと警察への通報を思い浮かべる方も多いですが、名義貸しをしている税理士を通報する場合は警察よりも税理士会に通報するのが良いです。名義貸しは税理士法や税理士会の規定に違反している行為で、懲戒処分に加えて2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
それだけでなく、税理士登録抹消の可能性があったり、税理士会から退会することも珍しくありません。それらの手続きには税理士会が関わることが多いので、資格を有する税理士を通報するのであれば、入会している税理士会に直接通報した方が、素早く対応してもらえることも多いです。また、その行為が本当に名義貸しかどうかについて質問することもできるので、名誉棄損などのトラブルを避けやすいのも、税理士会に通報するメリットの一つだといえます。
名義貸しという行為は懲戒処分の対象
名義貸しは税理士法や税理士会の規約に違反する行為で、重い懲戒処分の対象となる行為でもあります。しかし、名義貸しが違反行為であることを知らずに、悪意なく行っている方も少なくありません。身近な場所で名義貸しが起きている可能性もあるので、もし名義貸しを見つけた場合、近くの税理士会などに通報してみるのが良いでしょう。
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